日本の離島留学で男子高校生が行方不明になっていた背景を伝える雑誌記事が波紋を広げていました。
その後、とても悲しい結末となり、離島留学をはじめ、子供たちを預かる人たち、教育委員会の対応についてなど、多くの疑問が投げかけられていました。
日本の離島留学というのは、海外留学とホームステイを倣った部分があると思いますが、離島特有の問題や大人の事情が絡み合うことで、実は色々な課題を抱えているのではないかと思います。
こちらのでは、カナダ留学やアメリカ留学といった、本当の留学と比べて、離島留学の問題などを考えてみました。
なお、前出のニュースに関して、事故や事件などの真相について述べたものではありません。
離島留学とは
離島留学は、他県や本土の子供たちが、親元を離れて離島の学校に通うことのようです。
離島留学は、北海道から沖縄まで各地の離島で行われています。
都会の子供が、親元を離れて田舎で自然との共生社会から学ぶこといった情操教育が目的のように宣伝されていることがあります。
また、子供が少ない離島では、学校も少人数のため先生の目が子供たちに届きやすく、充実した学びの場になるそうです。
この離島留学がテレビ番組で取り上げられる際には、親元を離れて成長した子供たちに感動するというお決まりのストーリーになっているような気がします。
離島で学ぶという制度自体は、素晴らしいものであると思います。
ただ、子供たちのためというのは一部建前で、生徒が少なくて学校が廃校になることを防ぎたいという大人の事情も多分にあるようです。
里親ではなくホストファミリー?
離島留学では、子供たちを預かる大人を「里親」と呼ぶことがありますが、本来は、ホストファミリーの方が適しているのではないでしょうか。
里親制度は児童福祉法に定める公的制度であり、離島留学で安易に里親という名称を使うのは違和感があります。
離島留学していた男子高校生が行方不明になっていた壱岐市(長崎県)では、離島留学の里親の義務として下記のように定義しています。
里親は、実親とよく連携を図り、受け入れた留学生を家庭的に養育し、健やかな成長に向かって努力すること
しかし、壱岐市のある長崎県では、里親には4種類あり、養育家庭(養育里親)、専門養育家庭(専門里親)、養子縁組里親、親族里親をそれぞれ定義しています。参照:長崎県 里親制度とは。
里親になるために、特別な資格は必要ありません。心身共に健康で子どもの養育に理解と熱意、そして愛情がある方であれば、どなたでも申込みができます。ただし、研修の受講などの条件を満たし、知事から里親として認定・登録されることが必要です。
壱岐市と長崎県では、里親の定義や認識に差があるようです。
ホストファミリーは里親ではありませんので、基本、生活できる空間と食事を提供して、家族と共同生活をしながら、学校に通わせるというのが役割になると思います。
前出のニュースでは、里親と言われている人が、預かっていた男子高校生を厳しく躾けていたというような報道が一部ありました。
里親という認識であれば、自分の子供のように厳しく接することもあるかもしれませんが、ホストファミリーとしては、行き過ぎた対応になるかもしれません。
カナダやアメリカのホームステイでは、通常、ホストファミリー(ホストファミリーの大人)が、預かっている子供に対して手を上げるほど厳しく叱ったり躾けるようなことしません。
ホストファミリーと相性の悪かったり、ルールに従えない留学生がホームステイしてくることがありますが、ホストファミリーとしては必要に応じて多少注意はしますが、無理に躾けたりはしないと思います。
ホストファミリーで対処できない留学生については、ホームステイを運営している団体や学校に連絡して、その留学生を別のホストファミリーに移したり、学生寮などに引っ越させたりします。
日本のように躾と称する虐待や暴力が明るみになれば、逮捕されることもありますし、ホストファミリーを続けられなくなります。
転校するだけなのに、留学や留学生と呼ぶ不思議
留学は、本来、自国以外の国に在留して学ぶことであると思いますが、日本では都会から地方へ行くといった国内留学という言葉があり、離島留学や山村留学といった言葉も普通に使われているようです。
国内で学生が別の学校に通うのであれば、本来は転校という方が適しているように思うのですが・・・。
離島を海外のように特殊な地域として扱って、特別な体験にしようとしているのかもしれませんが、陸続きではないというだけで、日本であることは変わらないです。
離島では、環境や文化などが本土と違うことが色々あるかもしれませんが、日本の学校に通って、日本語が通じて、周りは日本人という環境の中で、留学というのは少しピンとこないというのは個人的な感覚の違いでしょうか。
壱岐市いきっこ留学制度では、離島留学に来る日本の子供たちを「留学生」と呼んでいるようです。
日本では、中国、韓国、ベトナムなど海外から日本に留学している学生さんたちを、一般に留学生と呼ぶと思うのですが、日本人の子供たちが離島に行くと留学生になるというのは不思議な感覚です。
海外で留学生として学んでいる日本人は、英語・フランス語・中国語など日本語以外の言葉を学び、文化や生活様式の異なる人たちの中で、ときに人種差別を受けるようなつらい目にあったりしながらも、異国の地で頑張って生活しています。
実際に海外留学している人たちからしてみれば、離島で学ぶことを離島留学と表現したり、県外から来た日本の子供たちを留学生と呼ぶというのは、どこか短絡的でチープな感じがするのではないでしょうか。
特に教育に関わる人たちが、安易に留学や留学生という言葉を使ったり許容している時点で、感覚がずれているというか、かっこよく聞こえた方が客寄せになるという大人の都合を感じてしまいます。
離島留学は補助金と金儲けのビジネス?
離島留学では、離島の過疎化や高齢化、仕事が少なかったり収入が安定しない状況の中で、他県から来る子供たちを預かるというビジネスの一面は余り伝わっていないかもしれません。
離島の学校は、生徒が増えれば施設の充実が図られます。新しい施設が作られたり、パソコンが導入されたりというように、国や県などから補助を受けた様々な恩恵があります。
離島留学で子供を預かってくれる家族に支払われる報酬では、料金の半分は行政が負担して、もう半分は実親が負担するというようになっていることがあります。
前出のニュースで、疾走した高校生を預かっていた家庭では、子供一人辺り月8万円の契約で7人も預かっていたという記事がありました。単純計算ですが、毎月56万円の収入になります。
自ら希望してその人数の子供たちを預かっていたのか、他に預かってくれるところがなく頼まれて仕方なく受け入れていたのか、不明なところはあります。
本来であれば、一家庭で預かれる子供の人数制限が設けられているべきなのに、それがなかったのでしょうか。いずれにしても、一家庭で7人も預かっていたら、ホームステイというより下宿に近いかもしれません。
それぞれ一人部屋が与えられていたのか、それとも2~4人部屋の形式だったのか、食事は十分だったのか、年上の子が下の子の面倒見るような役割が与えられていたのか、週末にはどこか小旅行に連れて行ってもらったりしたのか、というように細かい生活の様子や経費は分かりません。
ただ、疑って見てしまうと、たくさんの子供を受け入れて出費を調整すれば、それなりのお金は手元に残すことができるビジネスであるようにも感じます。
また、こういった制度を乱用して、問題児を預けたり、子育てを人任せにする親もいるような状況で、補助金まで出して離島留学を支援する必要があるのか疑問です。
本当に離島留学が素晴らしいものであるなら、補助金が無くても、実親たちは実費負担をして子供たちを預けたいと思うでしょう。
補助金が出るために歪んだ構造になることもあるので、事業開始時は別として、こういった事業にいつまでも補助金を出す必要があるのかも検討してほしいと思います。
離島留学は本当に子供たちのためなのか?
離島留学というと多少カッコいい響きに聞こえますが、海外に行って学ぶわけではなく、都会の受験戦争や複雑な人間関係からから逃れる「疎開」と表現する人もいます。
子供たちが自ら希望して離島に来ることが理想であると思いますが、両親の不仲や仕事が忙しいなどの理由で離島に行かされるというように、親の都合で振り回されている子供たちがいるというケースもあるそうです。
また、手に余る問題児を離島に行かせる親もいて、他の子供たちにとっては必ずしもよい環境で学べるとは限らないという話もあります。
離島留学に魅力を感じる子供を持つ親にとっては、離島にある自然豊かな環境でのびのび生活すれば、人間的に成長できるといったといった希望を抱いているかもしれません。
希望通りに行くこともあるでしょうが、自然が多いから子供が育つよい環境とは、必ずしも言えないことがあると思います。
田舎は狭い人間関係の中で生活していて、良い悪い両方の意味で監視社会のことがあります。荒んだ心が浄化されるどころか疑心暗鬼になって、息苦しいかったと言う元生徒さんもいます。
離島では、子供が少ないために学校が廃校になってしまうと、学校関係者の働く場が失われ、学校がなくなると子育てに適さないため若い人たちは島を離れてしまい、人口減少から経済活動も低迷してしまうなどの負の連鎖が心配されています。
学校を維持することで補助金が得られたり、島民の働く場が確保されたり、居住者や訪問者が増えれば経済活動も活発になります。
こういった行政や大人の事情が優先され、外部から連れてくる子供たちの待遇やケアがおざなりになっていないか、とても気になります。
更に、問題があっても声を上げづらい状況にあるとも言われています。この離島留学や里親について、批判をすることは地域経済に大きな痛手になります。
学校関係者にとっては死活問題ですし、離島留学で里親と呼ばれている人たちにとっても、何の資格がなくても収入が得られるビジネスは絶対に失いたくないでしょう。
一部の島民はSNSで真相を発信しようとしていましたが、こういった状況下では、地元で批判されたりして厳しい立場に追いやられているようでした。
ビジネス化しているカナダのホームステイ
カナダのホームステイは、留学生に人気があり、料金がどんどん上がってきています。
ホストファミリーが足りないので、毎月の報酬を上げることで数を確保している一面があります。補助金を出して事業を維持している日本の離島留学とはだいぶ異なります。
地域や運営する団体によって料金に差がありますが、ホームステイを利用する学生の多くが月8~10万円前後を支払っていると思います(為替レートによっても金額は上下します)。
地方では相場より少し安くなることがある一方、都市部では元々家賃が高かったりして月15万円以上というようにホームステイも高額になることがあります。
その他、部屋のタイプ(一人部屋または二人部屋)や食事の回数(朝夕食あり、週末食事なし等)によっても料金が異なってきます。
一般に支払われる報酬が上がれば、ホストファミリーをやりたいという人達が増え、ホームステイはどんどんビジネス化していると言ってもいいと思います。
仕事と捉えているホストファミリーにとっては、とてもよいビジネスになっていて、重要な収入源になっていることは確かです。
たとえば、シングルマザーが3人ほどの留学生を受け入れれば、外に仕事に出なくても家族を養っていける収入を得られるケースがあります。
若い夫婦が1人留学生を受け入れることで、新しく買った家の住宅ローンの返済が楽になるというケースもあります。
定年退職した夫婦が留学生を受け入れるケースでは、ホストファミリーになることで副収入を得ることができ、そのお金で旅行に行ったりして、余裕のある老後を送ることができます。
一昔前、低価格でボランティア精神で行っていたホストファミリーと比べて、現在は高い報酬をもらっているから悪いではなく、料金に見合った待遇(家の設備、食事、家族との交流、英語学習のサポートなど)をしているかが、大切になっています。
すべてのホストファミリーがよい家庭とは限らず問題もありますが、ホームステイを提供する団体・語学学校・コミュニティカレッジなどでは、ホストファミリーの審査を厳しくしたり専門カウンセラーを配置するなどして改善を試みています。
学生からクレームが多く上がってきたり、生徒たちが短期間で引っ越してしまうホストファミリーは、監査が入って契約を解除されることも珍しくありません。
生徒からは、普通の家庭にホームステイしたかったのに、いつまでもお客様扱いで、ビジネス化しすぎていると批判を受けることがあります。
しかし、基準に見合わないところは契約を切られてしまうので、その収入に頼っているホストファミリーは、ビジネスと自然体でのバランスといった、生徒との距離感に苦慮することがあるそうです。
ホストファミリーだけではなく、学生側に問題があることも多いです。学生の中には、各家庭のルールに従わなかったり、部屋での騒音、家の備品等を壊す、飲酒や薬物使用、留学生同士のケンカなどのトラブルを引き起こすケースがあります。
日本のように中途半端な里親ビジネスというか養育をするのがホームステイではないので、各家庭内でトラブルを解決するのではなく、基本、トラブルがあれば、ホームステイ団体や学校側に通報したり、ときには警察が出動することもあります。
いろいろな国やバックグラウンドから来る留学生を管理するのは大変で、コミカレや大学ではホームステイ事業から撤退して、民間のホストファミリー斡旋機関に委託するところもあります。
本当の離島留学にすればよいのでは?
近年、世界中から日本に旅行に来る外国人が増えています。コロナ禍前のインバウンド需要は、約5兆円もありました。
コロナ禍以降、外国人観光客がどんどん戻ってきており、観光ではこれから更に需要が大きくなることが見込まれています。
韓国、台湾、中国、オーストラリアやアメリカなど、多くの外国人が都会だけではなく、地方都市を巡ったり、さらには山奥のようなディープな田舎を開拓して旅行を楽しんでいるほど、彼らは日本が大好きです。
日本の田舎は外国人を魅了する街並みや自然があり、その土地の特産品や料理を堪能し、地元民との交流を楽しんでいる外国人も多いです。
本当の意味で「離島&留学」というものをやるのであれば、「日本の離島で留学しませんか?」と英語で発信して、世界中から留学生を集めるというのも一つの策ではないかと思います。
特に親が日本好きであれば、子供たちを留学させてもいいと思うかもしれません。
海外では、日本のアニメや漫画の人気が高く、子供たちも日本にとても興味を持っています。
日本に旅行で訪れる若者たちや、日本語学校に留学してくる学生たちの多くは、日本のアニメに影響されて日本に来たというのはよく聞く話です。
日本の大学は、今のところ海外からの人気はそれほど高くありませんが、高校生以下であれば、短期留学も含めて需要はあるかもしれません。もちろん、受け入れ体制を整えた上での話ですが。
海外からも学生が来てくれれば、学校は国際色のある留学の場になるかもしれません。
子供たちを大切にするホストファミリーと制度
お金儲けだろうとそうでなかろうと、ホストファミリーには、預かる子供たちを大切にして欲しいです。
ホストファミリーは、里親や実親ではありませんので、子供たちを厳しく指導できる程度は限られます。
暴力や暴言で躾けることは、絶対にしないというのは常識ですが、明文化して繰り返し注意喚起してほしいです。
万が一、ホストファミリーに問題があれば、被害あった子供だけではなく、そのホストファミリーに滞在している子供たち全員をすぐ保護するマニュアルも用意してほしいです。
カナダでは、問題の発生したホストファミリーにいた子供たちを、別のホストファミリーが一時的に預かることがあります。緊急の措置で、コミカレの先生たちが、自分たちの家で被害あった子供たちを匿ったりすることもあります。
海外のホームステイを参考にするならば、ホームステイ・コーディーネーターとカウンセラーは絶対に必要でしょう。
ホストファミリーのバックグラウンド(家族全員の犯罪歴などを含む)を審査したり、子供たちとうまくマッチングさせるだけでなく、怪しいホストファミリーを見抜く力のあるホームステイコーディーネーターは重要な存在です。
高校生くらいでも、自分のかかえる問題をうまく伝えられないことがあります。小中学生であればもっと難しいでしょう。ホストファミリーが怖かったら、なおさら言えないと思います。
親からの期待が高かったり、家から追い出されてしまったような子供たちは、他に行場がなく、我慢するしかないかもしれません。
そこで、子供たちと常に接して、言葉に出して言えない子供がいても、異常を察知したら、すぐに子供たちを助けてくれる専門カウンセラーも必要です。
いじめ問題でよくニュースになりますが、学校や教育委員会の隠蔽体質は誰もが知るところです。加害者たちと話をして、彼らはいじめをやってないと言っていますといって調査を終えてしまうような組織です。
ホームステイする子供たちを守るために、市役所や教育委員会などから独立した専門部署や人材を用意すべきでしょう。
警察との連携も必要だと思います。学校や役所関連の人たちが信用できないのは、利用されていると感じている子どもたちはきっと知っているでしょう。離島で他に頼る人もない状況であれば、最後の助けは警察になるかもしれません。
私がカナダでホームステイした地域では、警察官のお宅にホームステイしていた留学生がいるほど地元警察との繋がりがありました。ホストファミリーの集会などでも警察官が度々出席して目を光らせていたので、問題のあるホストファミリーは徐々に脱退していったそうです。
もしホームステイ先で暴力や虐待のようなことがあったなら、警察官が身近にいれば、子どもたちが助けを求めることができるかもしれません。離島留学に関わる地元有力者や教育関係者などに、警察が忖度しないことが前提ですが。
最後に、自分たちの島を活性化させたいとか、学校が廃校になったり離島留学が中止になって仕事を失いたくないという大人たちの都合だけではなく、子供たちのための制度や組織づくりも考えてほしいです。
また、カナダやアメリカのような留学大国に赴いて、本当の留学制度やホームステイの受入れ体制について学ぶことができれば、改善点や新しい発見があるのではないかと思います。